インバウンド需要、インバウンド特需、インバウンド消費、
様々な言葉で表される訪日外国人観光客の国内消費活動。
当サイトではまとめてインバウンドと呼称します。
このインバウンド。
2000年初期に日本政府が打ち出したキャンペーンが基となっており、
ドル高円安に振れたことや、LCCの台頭も手伝って、
2019年には3188万人が日本を訪れました。
特に中国人観光客の消費は凄まじく、5000億円もの経済効果を生み出し、
そのあまりの買いっぷりに「爆買い」と称され流行語大賞にも選ばれました。
しかし、その爆買いも最近は鳴りを潜め、
今回の新型コロナウィルスの影響で、インバウンド効果はほぼ壊滅状態に。
一部ホテルは、撤退を余儀なくされる程の影響を受けています。
今回は、そんな今更聞けない「インバウンド」を
出来るだけ判り易く解説していきます。
インバウンドを数字で見てみる
観光庁が発表している訪日外国人旅行消費額(以下インバウンド)。
外国人旅行者が国内旅行中に使用したお金が、インバウンドと呼ばれています。
2019年度は4兆8135億円が、インバウンドの実績となっています。
これは外国人旅行者が訪日時に消費した全体の数字となっており、
実際には更に細かく分かれています。
当サイトが参考にするのは勿論、宿泊費。
宿泊費は全体の29%前後。
つまり約1兆4000億円が宿泊費として消費されています。
この数字だけ見ると、インバウンド凄いじゃないか!と思われるかもしれません。
では、更にその数字を細かく見て行く事にしましょう!
2019年度、1人辺りの旅行支出は平均して15.9万円となっています。
これは1回の旅行全体での金額です。
では、その内、宿泊費はどれくらい掛かっているでしょうか?
平均すると4.7万円となっています。
これはあくまで平均値ですから必ずこの数字になるとは限りません。
しかし、当サイトにお越しくださる様なホテルラバーの方なら、
既にお気付きではないでしょうか。
これ、1泊の宿泊費じゃないんです。
旅行全体での宿泊費なんです。
はい。
もうお気づきですね?
当サイトで取り上げている様なラグジュアリーホテルだと、
1泊で使い切ってしまう、
いや寧ろ
泊まる事さえ不可能な金額だという事に。
ラグジュアリーホテルの場合、1泊4万円代のホテルを探す方が難しかったりします。
ましてや、滞在期間全てを4万円で収めると考えるなら、
ラグジュアリーホテルに宿泊する事はほぼ不可能だと言い切っていいでしょう。
この旅行支出、1位が買い物代で2位が宿泊費、3位が飲食費となっているのですが、
滞在期間中もっともお金が掛かるのって本来宿泊費の”はず”ですよね?
でも買い物に一番お金が使われているのが現状なのです。
そう。
そもそもインバウンドで価格帯が高めのホテルに宿泊する人の絶対数が少ないのです。
あれ?何か矛盾を感じませんか?
因みに、インバウンドの平均宿泊数は半数が9.1日。
9日間をリゾートホテルで過ごせるインバウンドは、極限られた方のみでしょう。
大半のインバウンドは、宿泊費をある程度安く抑えて、
お買い物をするかお金の掛からない観光をして楽しむ場合が多いのです。
インバウンドではなく、日本人の国内旅行消費を数字で見る
では、日本人の国内旅行消費額はどれくらいあるのでしょうか?
2019年度の日本人国内旅行消費額は21兆9312億円となっています。
私はこの数字を初めて知った時、心底驚きました。
「日本人の方が国内にお金使ってるじゃん!」と。
勿論、この数字が全てなワケではありません。
残念ながら、消費額の推移は一定値から伸び切っておらず、
今後の成長が見込めるかどうかは未知数なのが現状です。
また、宿泊費の比率が具体的に明示されていないので、
ここでは割愛させていただきます。
では、更に細かく数字を見て行く事にしましょう。
今回参考にしたのは日本人国内旅行消費額の項目別単価。
全体の平均値が算出されていない為、あくまで参考程度ですが、
概ね宿泊費:飲食費:交通費:買い物代が2:2:2:2となっています。
残りは娯楽費やその他が1ずつですね。
1回での宿泊費が概ね2万円~3万円前後となっています。
あれ?インバウンドより宿泊費が低いじゃん?
じゃぁ、インバウンドの方がやっぱり凄いんじゃないか!
そう思う方もいらっしゃるかと思います。
確かに数字だけを見れば、そう言えるかもしれません。
しかし、良く考えてみてください。
私達日本人って、1回の国内旅行で何泊する事が多そうですか?
そう。ここがポイントの1つ。
1泊2日が圧倒的に多いかと思います。
2017年度の日本人の国内旅行平均宿泊数は5割が1泊となっており、
2泊を合わせると全体の8割程へとなります。
また、2泊以上する割合が多いのは北海道や沖縄の2つのみ。
数字で見ても日本人の国内旅行は1泊のみが基本なのです。
その1泊に平均2万円の宿泊費を投じる。
しかもその数値はこの数年ほぼ一定を保っています。
インバウンドと比べて、ホテルにお金を使う確率が高いのは、
紛れもなく私達日本人なのです。
インバウンドと日本人では日本人の方がホテルにお金を使う
ホテルにお金を使うのは日本人の方が多いというのは、
上記の数字で見てもハッキリ証明されています。
そして日本人国内旅行者数も消費額も、微量ではありますが実は増加しています。
にもかかわらず、日本人のホテル客室稼働率はインバウンドと比べると、
約7%前後低いのです。
そして日本人の平均宿泊日数が徐々に低下傾向にあります。
ここからはあくまで私が考察した仮説です。
旅行はしているのに宿泊日数が減っている。
でも消費額は上昇している。
つまり、
「より価格の高いラグジュアリーホテルに泊まる事が増えている」
のではないかと思うのです。
もっと私が伝えたい表現に変えますと、
「自分のお気に入りのラグジュアリーホテルに泊まる事が増えている」
が近いと思います。
以前、当サイトでは、「ホテルを選ぶ際に大事な要素は?」
といったアンケートにご協力いただいた事がありました。
こちらで、1位となったのは、やはり宿泊費だったのですが、
このアンケートは複数回答が可能なアンケートでした。
結果的に宿泊費が1位になっただけであって、
それとは相反するクラブフロアが2位に挙がっている事を踏まえても、
「多少価格帯が高くても、よりサービスの良いお気に入りホテルに泊まりたい」
という意思の表れではないかと私は考えています。
インバウンドが増えて、日本人が減っているのは何故?
何故日本人の宿泊日数が減っているのか。
これには、インバウンドが大きく影響していると私は考えています。
特に観光地はこれが顕著に表れているのは間違いありません。
今までは「観光するついでに一泊しよう」が
目的で旅行される方も多かったと思います。
しかし、インバウンドの影響で、観光時に満足出来る可能性が減少してしまい、
観光をメインとした旅行に億劫となった方も多いのではないでしょうか。
その為、観光を目的とした旅行が減り、
宿泊を目的とした旅行が中心へとシフトしたのではないかと考えています。
参考になるのが日本有数の観光都市である「京都」
インバウンドの影響で、日帰りの国内旅行者が顕著に減少しています。
これは正に「観光目的で京都に訪れる」事を日本人がしなくなった事を表しています。
しかし、その一方で、京都での日本人の宿泊客数は増加の一途を辿っています。
京都の場合、名立たるラグジュアリーホテルが挙って開業し、
ホテルでゆっくりしたい方には打ってつけの名ホテルが揃い始めています。
そんなホテルで過ごしたい方は、「京都を観光したいから」という目的ではなく、
「このホテルに泊まりたいから」という目的で京都に訪れるかと思います。
これは京都の場合、偶々「良いホテルがあった」のが京都なワケで、
「京都に行きたい」は二の次なのです。
インバウンドが
観光>宿泊
の目的意識なのに対し、
日本人は
宿泊≧観光
の目的意識な為、本当は両方楽しみたいけれど、
両方楽しめないなら、宿泊を優先したいとなり、
まずホテル最優先の旅行計画を立てる場合が多いのです。
では、京都の様にホテルがない場合はどうなるでしょうか。
観光も期待出来ない、良いホテルもない。
そうなると、旅行の候補地から外されてしまうのは言うまでもありません。
ディズニーリゾートやUSJ等、強い目的意識を持たせる施設があれば別ですが、
そうでない限り、やはり厳しい情勢なのは仕方のないことです。
インバウンドの影響を悪い意味で諸に受けた旅館
インバウンドで本来潤うはずだったのに、却って窮地に追い込まれたもの。
それが「旅館」です。
国内旅行者の旅館への宿泊者数は減少の一途を辿り、
ラグジュアリーホテルへと客足が流れる結果を生んでしまいました。
これには上記の「観光」への目的意識が強く関係しています。
旅館があるのはほぼ「観光地や温泉地」に集約されています。
温泉地の旅館の場合、「温泉」が第一目的である為、
インバウンドの影響もそこまで強く受けることはありませんでした。
しかし、観光地の旅館は「観光」が第一目的である為、
その観光が出来ないのであれば、そもそも選択肢に入りません。
また、期待したインバウンドも「旅館」という特殊な環境に中々適合出来ず、
結果的に日本人、インバウンドの両方で
選択肢から外されてしまうという悲劇を生んでしまいました。
今生き残っているのは、
何とかそのインバウンドにアピールポイントを合わせた旅館が多いです。
そのインバウンドが無くなってしまった今、
果たして日本人向けにアピールポイントを用意出来るのかが
最大のポイントとなってきます。
インバウンドは幻。国内旅行者に是非ターゲットを
本当に幻の様に消えてしまったインバウンド。
確かに目に見えた消費額の伸び率には目を見張るものがあり、
恩恵を受けた事業も多いでしょう。
しかし、数字を見ると、ホテルや旅館全体では期待した程芳しくないのも事実。
観光地のホテルや旅館が今回挙って廃業へと追い込まれたのが、
はっきりとした結果でしょう。
では、今後、ホテルはどうなっていくのでしょうか。
当サイトでも人気の記事にそのヒントがあるかと思います。
日本人の国内旅行者が求めるのは今も昔もハッキリしています。
- 美味しい食事
- 温泉
- 綺麗な景色
- 観光
- テーマパーク等強い目的意識が持てる施設
- 非日常
- インスタ映え←※NEW!!!
この内どれか1つでもあれば、
「このホテルに泊まってみようか」
と思って行動を開始します。
特にラグジュアリーホテルは上記の要素を複数兼ね備える場合が多く、
後は単純に宿泊費が許容範囲内かどうか程度。
どちらかと言えば、優雅な滞在を求める傾向が強いのではないかと考えています。
他にも、今後観光が再び盛んになれば、
観光地のホテルがもてはやされるのは想像に難くありません。
リーズナブルに宿泊出来る、
カジュアルホテルやハイビジネスホテルはより勢力を増すでしょう。
ハイエンドホテルやアッパーミドルホテルは、
個性派か正統派の二極化になっていくのではないかと予想しています。
正統派はより日本らしいおもてなしのホテルが増え、
顧客満足度の高いホテルが生き残り、
個性派は唯一無二の体験を売りにしたホテルが増え、
アミューズメント性が増していくのではないかと予想しています。
日本人は、気に入ったホテルが出来れば、何度も同じホテルに泊まる方も多く、
その方とは世代を超えてのお付き合いになる場合も少なくありません。
インバウンドが露と消えた今こそ、
私個人としては、日本のホテルの原点に立ち返って欲しいなと思います。
これはホテルだけでなく、私達旅行者も同じです。
勿論、次世代へのアピールも大切ではあります。
が、日本のホテルだからこその魅力がもっともっと沢山あるはずです。
それが美しい景色なのか、美味しい食事なのか、楽しいテーマパークなのか。
敢えて定義する必要はないと思っています。
日本らしいホテルには何が相応しいか。
日本らしいホテルへ泊まるには何が相応しいか。
ほんの少し考えるだけで良いんです。
当サイトは心から、日本のホテルを応援しております。
そして日本人が、もっと日本のホテルを愛してくれる様、
陰ながら応援出来ればと思っています。
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